大判例

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最高裁判所大法廷 平成8年(オ)1697号 判決

上告人

閔有紀

上告人

岩井美奈子

右両名訴訟代理人弁護士

佐久間信司

右訴訟復代理人弁護士

北村栄

森田茂

稲垣仁史

被上告人

旧名称国民金融公庫

国民生活金融公庫

右代表者総裁

尾崎護

右訴訟代理人弁護士

大矢和徳

右訴訟復代理人弁護士

石川智太郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人佐久間信司の上告理由について

一  原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1  被上告人は、平成元年一一月一〇日、吉田行路との間で、同人所有の第一審判決別紙物件目録記載の土地及び建物(以下、「本件不動産」といい、このうち建物を「本件建物」という。)について、債務者を吉田、極度額を三五〇〇万円、被担保債権の範囲を金銭消費貸借取引等とする根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)の設定契約を締結した。

2  被上告人は、平成元年一一月一七日、吉田に対し、二八〇〇万円を、平成二年二月以降毎月一五日に元金一一万七〇〇〇円を当月分の利息と共に支払うなどの約定により貸し付けた(以下、これによる債権を「本件貸金債権」という。)。

3  上告人らは、平成五年五月ころから、本件建物を権原なく占有している。

4  被上告人は、本件貸金債権の残額につき期限の利益が失われた後である平成五年九月八日、名古屋地方裁判所に対し、本件不動産につき本件根抵当権の実行としての競売を申し立て、同裁判所は、同日、不動産競売の開始決定をした。右事件の開札期日は平成七年五月一七日と指定されたが、上告人らが本件建物を占有していることにより買受けを希望する者が買受け申出をちゅうちょしたため、入札がなく、その後競売手続は進行していない。

二  本件は、被上告人が、上告人らが本件建物を権原なく占有していることが不動産競売手続の進行を阻害し、そのために本件貸金債権の満足を受けることができないとして、上告人らに対し、本件根抵当権の被担保債権である本件貸金債権を保全するため、吉田の本件建物の所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使して、本件建物の明渡しを求めるものである。

原審は、次のような判示し、被上告人の請求を認容すべきものとした。

1  本件不動産についての不動産競売手続が進行しないのは、上告人らが本件建物を占有していることにより買受けを希望する者が買受け申出をちゅうちょしたためであり、この結果、被上告人は、本件貸金債権の満足を受けることができなくなっている。したがって、被上告人には、本件貸金債権を保全するため、吉田の本件建物の所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使する必要があると認められる。

2  被上告人が請求することができるのは、本件建物の所有者である吉田への明渡しに限定されるものではなく、被上告人は、保全のために必要な行為として、上告人らに対し、本件建物を被上告人に明け渡すことを求めることができる。

三  抵当権は、競売手続において実現される抵当不動産の交換価値から他の債権者に優先して被担保債権の弁済を受けることを内容とする物権であり、不動産の占有を抵当権者に移すことなく設定され、抵当権者は、原則として、抵当不動産の所有者が行う抵当不動産の使用又は収益について干渉することはできない。

しかしながら、第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、これを抵当権に対する侵害と評価することを妨げるものではない。そして、抵当不動産の所有者は、抵当権に対する侵害が生じないよう抵当不動産を適切に維持管理することが予定されているものということができる。したがって、右状態があるときは、抵当権の効力として、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対し、その有する権利を適切に行使するなどして右状態を是正し抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を有するというべきである。そうすると、抵当権者は、右請求権を保全する必要があるときは、民法四二三条の法意に従い、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができると解するのが相当である。

なお、第三者が抵当不動産を不法占有することにより抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権に基づく妨害排除請求として、抵当権者が右状態の排除を求めることも許されるものというべきである。

最高裁平成元年(オ)第一二〇九号同三年三月二二日第二小法廷判決・民集四五巻三号二六八頁は、以上と抵触する限度において、これを変更すべきである。

四  本件においては、本件根抵当権の被担保債権である本件貸金債権の弁済期が到来し、被上告人が本件不動産につき抵当権の実行を申し立てているところ、上告人らが占有すべき権原を有することなく本件建物を占有していることにより、本件不動産の競売手続の進行が害され、その交換価値の実現が妨げられているというのであるから、被上告人の優先弁済請求権の行使が困難となっていることも容易に推認することができる。

右事実関係の下においては、被上告人は、所有者である吉田に対して本件不動産の交換価値の実現を妨げ被上告人の優先弁済請求権の行使を困難とさせている状態を是正するよう求める請求権を有するから、右請求権を保全するため、吉田の上告人らに対する妨害排除請求権を代位行使し、吉田のために本件建物を管理することを目的として、上告人らに対し、直接被上告人に本件建物を明け渡すよう求めることができるものというべきである。

五  本件請求は、本件根抵当権の被担保債権をもって代位の原因とするが、本件根抵当権に基づいて、その交換価値の実現を阻害する上告人らの占有の排除を求めるため、所有者に代位して、上告人らに対して本件建物の明渡しを請求する趣旨を含むものと解することができるから、被上告人の請求を認容すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

よって、裁判官奥田昌道の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官奥田昌道の補足意見は、次のとおりである。

私は、法廷意見に同調するものであるが、抵当不動産が不法占有されている場合における抵当権者の救済の在り方について、意見を補足して述べておきたい。

一  第三者の行為等による抵当権侵害の成否について

抵当権は、抵当不動産の担保価値(交換価値)を排他的に支配し、競売手続において実現される交換価値から他の債権者に優先して被担保債権の弁済を受けることを内容とする物権である。もっとも、抵当権は、抵当不動産を有形的・有体的に支配する権利ではなく、その交換価値を非有形的・観念的に支配するにとどまり、同一の不動産上に順位を異にする複数の抵当権が成立し得る。この点において、抵当権は、留置権、質権といった担保物の占有を要素とする担保物権、あるいは地上権等の他の制限物権とは異なっている。

ところで、抵当権に認められる抵当不動産の交換価値に対する排他的支配の権能は、交換価値が実現される抵当権実行時(換価・配当時)において最も先鋭に現われるが、ひとりこの時点においてのみならず、抵当権設定時以降換価に至るまでの間、抵当不動産について実現されるべき交換価値を恒常的・継続的に支配することができる点に、抵当権の物権としての意義が存するものとみられる。したがって、抵当権設定時以降換価に至るまでの間においても、抵当不動産の交換価値を減少させたり、交換価値の実現を困難にさせたりするような第三者の行為ないし事実状態は、これも抵当権に対する侵害ととらえるべきであり、かかる侵害を阻止し、あるいは除去する法的手段が抵当権者に用意されていなければならない。

また、抵当不動産の交換価値は競売手続において実現されるものであるから、第三者の行為等が抵当不動産の交換価値を減少させ、又は交換価値の実現を困難にさせるものとして抵当権の侵害に当たるか否かについては、当該行為等の内容のみならず、競売手続における当該抵当権者に対する配当の可能性等も考慮すべきである。けだし、すべての抵当権者に同等の救済を認めることは適当ではなく、配当を受ける可能性が全くない後順位抵当権者による救済手段の濫用を防止することも、考慮しておかなければならないからである。

二  抵当権に基づく妨害排除請求権について

物権の実現が妨げられ、又は妨げられるおそれがある場合に、物権の権利者が物権の効力として妨害者に対し妨害の排除又は予防を請求することができること(物上請求権)は、広く承認されている。このような物上請求権は、物権の権利者の目的物に対する事実的支配(占有)が妨げられ、又は妨げられるおそれがある場合に、あるべき状態を回復するための手段として認められてきたものである。抵当権は目的物に対する事実的支配(占有)を伴わずにその交換価値を非有形的・観念的に支配する権利であるが、本件におけるように、第三者が抵当不動産を何らの正当な権原なく占有することにより、競売手続の進行が害され、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態が生じているときは、右不法占有者に対し、抵当権者は、抵当権に基づき、妨害の排除、すなわち、不動産の明渡しを請求することができるものといわなければならない。もちろん、この場合に、抵当権者が自己への明渡しを請求し得るのか、抵当不動産の所有者への明渡しを請求し得るにとどまるのかは、更に検討を要する問題である。

三  抵当権者による所有者の妨害排除請求権の代位行使について

抵当権の侵害に対する救済手段として、抵当権そのものに基づく妨害排除請求権が認められるならば、更にそれ以外に、抵当不動産の所有者の有する妨害排除請求権を抵当権者が代位行使することを認めることについては、異論があり得よう。第一の問題点は、民法四二三条の定める債権者代位権は「自己ノ債権ヲ保全スル為メ」に認められるものであるところ、抵当権侵害の場合において被保全債権となるものは何かである。第二の問題点は、債権者代位権のいわゆる転用事例(不動産所有権の相次譲渡の場合における転得者による中間者の登記請求権の代位行使や、不動産賃借権に対する侵害の場合における賃借人による所有者の妨害排除請求権の代位行使)においては、権利の代位行使は、他に適切な救済手段が存しないためにやむなく認められた便法とされているのに、抵当権侵害の場合には、抵当権者について抵当権に基づく妨害排除請求権を認めることで十分ではないかとの反対論が考えられることである。

第一の点については、次のように考えられる。抵当権設定者又は抵当不動産の譲受人は、担保権(抵当権)の目的物を実際に管理する立場にある者として、第三者の行為等によりその交換価値が減少し、又は交換価値の実現が困難となることのないように、これを適切に維持又は保存することが、法の要請するところであると考えられる。その反面として、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対し、抵当不動産の担保価値を維持又は保存するよう求める請求権(担保価値維持請求権)を有するものというべきである。そして、この担保価値維持請求権は、抵当権設定時よりその実行(換価)に至るまでの間、恒常的に存続する権利であり、第三者が抵当不動産を毀損したり抵当不動産を不法占有したりすることにより、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられるような状態が生じているにもかかわらず、所有者が適切な措置を執らない場合には、この請求権の存続、実現が困難となるような事態を生じさせることとなるから、抵当権者において、抵当不動産の所有者に対する担保価値維持請求権を保全するために、抵当不動産の所有者が侵害者に対して有する妨害停止又は妨害排除請求権を代位行使することが認められるべきである。

第二の債権者代位権の転用事例における補充性(他に適切な救済手段がないこと)の点については、抵当権に基づく妨害排除請求権の要件及び効果(請求権の内容)につき論議が尽くされているとはいい難く、なお検討を要する点が存する現状においては、代位請求による救済の道を閉ざすべきではないと考える。

ところで、代位権行使の効果として抵当権者は抵当不動産の占有者に対して直接自己への明渡しを請求することができるかの点については、抵当権者は抵当不動産の所有者の妨害排除請求権(明渡請求権)を同人に代わって行使するにすぎないこと、抵当不動産の所有者の明渡請求権の内容は同人自身への明渡しであることからすれば、抵当権者による代位行使の場合も同じであると考えるべきもののようにみえるが、抵当不動産の所有者が受領を拒み、又は所有者において受領することが期待できないといった事情があるときは、抵当権者は、抵当不動産の所有者に代わって受領するという意味において、直接自己への明渡しを請求することができると解するのが相当である。そして、本件のような事実関係がある場合は、原則として、抵当権者は、直接自己に抵当不動産を明渡すよう求めることができるものというべきである。その場合に抵当権者が取得する占有は、抵当不動産の所有者のために管理する目的での占有、いわゆる管理占有であるといい得る。

なお、いかなる場合に代位権を行使することが認められるかについては、事案に応じ検討すべき問題があるが、本件のように抵当権者による競売申立てがなされている事案においては、代位権行使を認めることに何の支障もないと考える。

(裁判長裁判官山口繁 裁判官小野幹雄 裁判官千種秀夫 裁判官河合伸一 裁判官遠藤光男 裁判官井嶋一友 裁判官福田博 裁判官藤井正雄 裁判官元原利文 裁判官大出峻郎 裁判官金谷利廣 裁判官北川弘治 裁判官亀山継夫 裁判官奥田昌道 裁判官梶谷玄)

上告代理人佐久間信司の上告理由

一、第一審判決及び控訴審判決とも民法四二三条一項「債権を保全するため」との要件の解釈を誤っており、この点は「判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違背」(民訴法三九四条)である…その1

本件事案における被保全債権は貸金債権であり、被代位権利は物上請求権である。このような金銭債権保全のための特定物債権の代位行使の場合は、いわゆる無資力要件が厳守されなければならない(有斐閣双書「新版民法(4)」一〇二頁)。

にもかかわらず被上告人は債務者吉田の無資力要件の主張をしていない。従って被上告人の本訴請求はそもそも主張自体失当であって、この点からだけでも原判決は破棄を免れない。

次に、債務者吉田は無資力でない。なぜなら、①被上告人が極度額三五〇〇万円で根抵当権を設定している本件土地建物の登記簿謄本によれば本件土地建物にはいくつもの後順位抵当権が設定されていること、②競売事件の記録(名古屋地方裁判所平成五年(ケ)第四五七号)によれば本件土地建物の最低競売価額は金二六五五万円となっており、債務者は少なくとも右最低競売価額以上の資力は有するはずであること、③甲第五号証(債務者吉田の別件における本人調書)によっても債務者吉田が無資力であるとは認定できないことなどがその理由である。よって仮に、被上告人に無資力要件の主張自体はあると善解しても、債務者が無資力であるか否かについては被上告人の立証が不十分であって、少なくとも審理不尽の違法がある。

控訴審判決は、別の論点で「債務者としては、債権の保全のために必要な行為をなしうるのであって、所有者への明渡しに限定されるものではない」(五丁表最終行から裏二行目まで)と判示しているだけで、この無資力要件に関し何らの判断を加えていない点は問題が大きい。

さらに、被上告人は被保全債権たる貸金債権のために根抵当権を設定しており、その担保権の実行の手続に至っているのであるから、そのような有担保金債権者にとって債権者代位権を行使しなければならないような必要性は認められない。

二、第一審判決及び控訴審判決とも民法四二三条一項「債権を保全するため」との要件の解釈を誤っており、この点は「判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違背」(民訴法三九四条)である…その2

第一審判決を強制執行しても被控訴人の貸金債権の満足は得られない。被控訴人が目的物の明渡を受けても貸金債権が保全されないことは明白である。敢えて言えば競売手続で買受け希望者が出る可能性が若干増す程度のことであり、この程度のことでは「債権を保全するため」という民法四二三条一項の要件を満たさないと解釈するべきである。

第一審判決のこの点の判示(六丁表)は債権者代位権の根拠のない拡張適用である。本件は判例が登記請求権や不動産賃借権のケースで債権者代位権の転用を認めてきたのとは異なる。右の転用が認められてきた例では、債権者がもともと登記や占有を求めうる立場であった。ところが本件事案の債権者(被控訴人)は、もともと抵当物の占有権限を持たない。抵当権者は交換価値を掴むだけで利用権は持たないのである。それでも抵当権を実行すれば競落人は合法的に目的物の所有権・占有権を求めうるから支障はないと考えられたのである。

従って、本件事案は債権者代位権の転用を認めうる事案ではなく、原判決のこの点の判断は法令の解釈を誤っている。

三、第一審判決及び控訴審判決とも民法四二三条一項「債務者に属する権利を行うことを得」との債権者代位権の行使方法に関する解釈を誤っており、この点が「判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背」(民訴法三九四条)である。

まず、第一審判決及び控訴審判決の主張整理によると、被上告人が保全しようとする債権は金二八〇〇万円(元金)の貸金債権である(第一審判決二丁裏の3、同五丁裏の三項冒頭二行)。被上告人の債権は金銭債権であり、債務者吉田の上告人に対する債権は物上請求権であり、その両権利の性格は全く異なる。このような場合には、債権者代位権の行使を前提としても、少なくとも被上告人は上告人に対し債務者への明渡を請求できるだけであって、被上告人に対する直接の明渡までは請求できない。なぜなら、本件では債務者たる吉田が、本件建物の明渡を受領しないというような立証は全くないから、被上告人に対する直接の明渡まで認める必要はないのである。この点控訴審判決は「債権者としては、債権の保全のために必要な行為をなしうるのであって、所有者への明渡しに限定されるものではなく、原審認定の事実関係のもとにおいては、被控訴人は吉田に対する資金債権保全のため、被控訴人への本件建物の明渡しを被控訴人らに求めうると解される」(五丁表最終行から裏四行目まで)と判示している点は、何らの理由の説示もなく失当である。

判例には被上告人(債権者)への直接の引渡を認容したものがあるが、それは金銭債権を保全するために債務者の有する同種の金銭債権を代位行使する場合に限られている。本件のように金銭債権を保全するために、債務者の有する物上請求権という特定債権を代位行使するというケースで、債権者への直接引渡を命じたような例はない。

また、登記請求権のような特定債権を代位行使する場合には債務者への移転を請求できるだけというのが判例学説の見解であって(我妻「債権総論」一六九頁)、これを前提としても、本件のような特定債権を代位行使する場合には債務者への明渡を請求できるだけであって、債権者への直接の明渡など請求できないと考えるべきである。抵当権は抵当目的物の占有権限など含まないものであるから、抵当権者たる被上告人が、抵当目的物の自己への直接の明渡まで請求できるなどと解釈するのは被上告人の権限外の行為を認めるものであって、民法四二三条の代位権行使の方法につき法令の解釈を誤ったものである。それが判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから第一審判決は破棄を免れない。

四、第一審判決及び控訴審判決は、代位権行使の必要性の存否に関し理由不備(民訴法三九五条一項六号)がある。

第一審判決は、被上告人による「競売手続が進まないのは、近年の不動産取引の沈静化の傾向の中で買受希望者は第三者占有のある物件の購入を差し控える傾向が顕著であり、本件土地及び建物の買受希望者は、本件建物について被告らが占有していることから、買受を躊躇し、競売手続が進まない実情にある」などと判断しているが(第一審判決六丁表)、このような事実認定は経験則に反する認定であって事実誤認があり、これは理由不備を導く。

最近裁判所の競売手続が進まないのは、不動産価格が低落し裁判所の最低競売価格が市民に高額な印象を持たれていたり、長引く不況のため需要と供給のバランスが崩れ買い手が少ないことによるというのが主な理由である。担保権実行不動産に占有者がいても、買受人は買受後裁判所に引渡命令を発してもらって明渡を強制できるのであるから、占有者の存在が競売手続の進行を妨げているというのは事実誤認も甚だしい。よって、第一審判決及び控訴審判決には事実誤認、理由不備の違法があり、この面からも破棄を免れない。

被上告人の貸金債権は、担保権実行手続が買い手が付いて進めば即満足が得られるものであって、何も占有者を排除したからといって買受け人が現れる確たる保障があるわけでもない。占有者の排除は買受人を求めるための一つの条件整備に過ぎず、そのことが代位権行使の必要性まで導くものではない。

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